2026/08/13

第10話:「パキィン!」芯に当たった!生まれて初めてボールが宙を舞った日

「当てると思わなくていい。ブランコみたいに、気持ちよくビュンと振るだけですよ」

佐藤プロの優しい言葉が、私の耳の奥に心地よく残っていた。 私は大きく深呼吸をした。吸い込んだ空気が胸いっぱいに広がり、吐き出すとともに、肩や腕にガチガチに入っていた余計な力が、足元から床へと抜けていくような感覚があった。

もう一度、足元にちょこんと佇む白いボールを見つめる。 でも、さっきまでのような「当ててやる!」という敵対心は不思議となかった。ただ、そこにある白い丸。私はクラブの重みを感じながら、ゆっくりとバックスイングを開始した。

時計の針の「8時」までクラブを上げ、そこから力任せに振り下ろすのをやめた。重力に身を任せるように、クラブが自然と落ちていく感覚。そのまま、ほうきで床をパッと掃くように、滑らかに腕を前へと振り抜いた。

「パキィン!」

静かなインドアスタジオに、驚くほど高くて澄んだ綺麗な音が響き渡った。 手のひらに伝わってきたのは、さっきマットを叩いたときの鈍い衝撃とは全く違う、何も抵抗がなかったかのような、驚くほど軽くて柔らかい感触だった。

「えっ……?」

顔を上げると、目の前の大きなシミュレーター画面の中で、白いボールが美しい放物線を描いて、青空に向かってぐんぐんと吸い込まれるように上がっていく映像が映し出されていた。画面の奥の緑の芝生の上に、ボールがぽんと弾んで転がっていく。

「素晴らしい!美咲さん、今のは完璧に芯で捉えましたよ!」 佐藤プロが、まるで自分のことのように手を叩いて飛び跳ねて喜んでくれている。

「当たり……ました。私、今、ボールを打ちました!」 嬉しさと興奮で、声が上ずってしまう。自分の手で、あの小さな球を捉え、遠くへ飛ばすことができた。高校の体育の授業以来、運動でこんな爽快感を味わったのは初めてだった。

画面には『飛距離:65ヤード』という数字が表示されている。それがどのくらい凄いことなのかは分からなかったけれど、真っ直ぐに空を舞ったあの白線の美しさは、私の胸に強烈な感動を焼き付けた。

「今の感覚、忘れないうちに、もう一度リラックスして振ってみましょう!」 佐藤プロの言葉に、私は力強く頷いた。もう、ボールを見るのが怖くなくなっていた。

【プロのワンポイント解説】

「ナイスショット」の快感は、脳を覚醒させる特効薬

美咲さん、ついにやりましたね! 初めてボールが芯に当たったときの、あの「手のひらに衝撃が残らないくらい軽い感覚」と、パキィンという澄んだ音。これこそが、世界中のゴルファーが何十年経っても魅了され続ける、ゴルフの最大の魔力です。

初心者の方が初めて芯(スイートスポット)でボールを捉えた瞬間、脳内にはドーパミンが溢れ出します。それまで「怖い」「恥ずかしい」と思っていたネガティブな感情が、この一打だけで一気に吹き飛んでしまうのです。

実は、ゴルフのクラブは物理的に「正しく振れば、勝手にボールが上がって遠くに飛ぶ構造」になっています。美咲さんが力を抜いたことで、クラブ本来の性能が引き出された証拠です。この「気持ちいい!」という感覚を体に染み込ませていきましょう。

【まとめ】

ついに人生初のナイスショットを放ち、ゴルフの本当の快感を知った美咲。空振りの恐怖を乗り越えた彼女は、ここからさらにゴルフの魅力に引き込まれていきます。 次回、第11話「真っ直ぐ飛ぶってこんなに気持ちいいんだ!ゴルフの楽しさに気づいた瞬間」に続きます。

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